数字で見る『ライフスタイル・アソートメント型スーパーマーケット』と『コモディティ・ディスカウント型』、その違い

企業には、それぞれの考え方によった、それぞれの生き方・行き方が ある。 スーパーマーケットにおいてもそれは当然のことで、例えばヤオコーのように「ライフスタイルーアソートメント型スーバーマーケット」 (最近では、「豊かで楽しい食生活提案型スーバーマーケット」と呼称している) を志向する企業と、一方で、大黒天物産やオーケーなどのように「コモディティディスカウント型のスーバーマーケット」があってもいい。どちらがいい・悪いとか、正しい・正しくないという問題ではなく、あくまでも自分自身の生き方・行き方の問題で、他がどうこうではなく、それぞれ徹底して貫いていけばいいことである。ただ、どのような考えで、どのようないき方を志向するかで商いと経営のあり方は変わってくるし、 それを支える仕組み、組織体制、経営構造も変わってくる。結果として出てくる利益は、同じような水準であっても、その利益を実現するブロセスは違ったものになる。

近藤献氏は、スーバーマーケット企葉の数字分析におけるエクセレントな存在であるが、ここではそのブロフェッショナルな立場から、いき方の異なる2つのスーパーマーケットの数字分析を通して、企業の路線の選択がマネジメントプロセスにどのような違いを生むのかの分析をしていただければということで、こうした機会を設けさせていただいた。

題して「数字で見る『ライフスタイル・アソートメント型スーパーマ ーケット』と『コモディティ・ティスカウント型スーパーマーケット』、その違い」ということだが、前者の代表選手として「ヤオコー」、 後者の場合は株式上場企業が少なく、有価証券報告書として公表されたデータもない (大黒天物産はこの段階では平成21年度の有価証券報告書は手に入っていない) ために、あえて「ベ ルク」に代表選手になってもらった。本当はもっと多くの企業のデータがあれば、比較分析も正確になると思うが、それはまたの機会にもっと掘り下げて行ないたいと考えている。

もちろん単に定量分析だけで路線の違いが分析できるものではなく、売り場のスタディ、商品や品揃えやサービス揃えの検証、それを支えるバックヤードの仕組み・システム、物流を含めた組織や人事や教育などのビジネス活動を支えるインフラ等々をトータルに見ていかなければならないが、これは本誌上で常に行なっているこ とで、そうした定性的分析の裏付けになるものとして、ここでは定量分析に取り組んでみようと考えた次第である。 (編集部)

「何屋か?」という企業としてのいき方の問いに対して販促費のかけ方一つでも数字分析によって明確にその遠いが出てくる

近藤 それぞれの企業の数字を比較分析で見ることで、各企業がどういう考えに立って、どういう経営をしているのかが見えてくると思います。どういうプロセス、つまりマネジメント構造やオペレーション体制をとっての結果としての数字があるのかも、いき方の異なる企業同士の数字を比較分析すれば、見えてくるということです。もちろんそのベースには、それぞれ企業の持つ経営理念や思想、政策や戦略方針もあるわけで、そこまで踏み込んで数字を見るというのが、私の仕事でもありますから。

今回は、数字が揃っているというところで、ヤオコーとベルクの比較分析をしてみたいと思います。私は、経営において店の数が所与のものとしたときに、経営側として業績を上げるためにとり得る手として何があり得るのだろうと考えた時、営業利益段階では、大きく分けて次の3つがある、と考えています。
人をたくさん投入するか減らすかが、まず一つ。それから商品をたくさん入れるか減らすか、つまり在庫についての考え方、そして三つ目は差益率、つまり値入れを上げるか下げるかです。きわめて単純化して言えば、こうなる。ただ、この三つの数字を実数のまま見たのでは、本質が分かりづらい。

なので、分かるように指数化してみましょうということで、例えば一人当たりの売り上げという見方をしてみます。スーパーマーケットで言えば、面積当たり、つまり1㎡とか1坪あたりの人数、また商品投入に関して言えば、坪あたりの在庫金額の多寡といったことで分析していく方法があります。

そういう中で、一人当たりの売り上げや在庫回転数ということには、どこでも注目されてきていたけれども、これまであまり注目されてこなかった売り場面積に対しての人の投入状況、面積に対しての在庫、あるいは一人当たりの在庫といった指数に目を向けてみると、興味あることが見えてきます。もちろん、こうした指数は、互いに相関関係のある係数としては出てきにくいけれども、例えば、ある企業の中だけで見てみると、それぞれの指数の間に相関関係のあることもわかります。

そういうことで、今回は、ヤオコーとベルクを比較分析してみました。

同じ地域であるけれども、両社ともにこの厳しい状況下で増収増益を可能にしている。しかし実際に両社がやっているやり方を見ると、全く違うし、また考え方も違う。これは、定性的というか、店を実際に見ても分かることですが、違いははっきりと見えます。もちろん、お客からもその違いは見えるはずです。そして確実に使い分けをし、また自分はどの店を支持するかという客層の違いもあると思われます。両社の店が近くにある場合は、 特にそれが顕著でしょう。

編集部 企業としてのいき方の違いが、店の商売にあらわれ、支持も違ってくるということですね。あるいは同じ客でも、使い分けをすることになる。

近藤 ヤオコーの平均店舗面積を有価証券報告書や新店のプレスリリースで見ると、平均で1700㎡~1800㎡ですね。ベルクはだいたい2000㎡くらいです。1割ちょっとベルクのほうが、ヤオコーより大きい。この両方の一店舗当たりの平均売り上げを比較してみると、ヤオコーのほうは18億円の後半、ベルクが17億円の半ばで、ヤオコーのほうが高い。つまりベルクは、ヤオコーに比べ、ちょっと広い店で、坪売り上げは少ないということですね。

それぞれ店にどれくらいの人を投入しているのかを見ると、本部の人員も含めて、1店あたりで割った数字なのですが、必ずしも店にいる人数ではないけれども比較条件は同じなので、2社を比べても支障はないと思います。

これで見ると、ヤオコーは1店舗当たり86人、ベルクは44人です。ベルクは非常に投入人数が少ない。この数字だけでもヤオコーとべルクは「何屋か?」という問いに対して、それぞれ異なったいき方をしていることが分かる。つまり同じスーパーマーケットでも、商売が違うということが見えてくるはずです。倍近い差ですね。

では、商品投入はどれだけ違うかを見ますと、これも面白い結果が出ています。ヤオコーの場合、惣菜は100%子会社の三味に担当させているので、単体の数字ではこれが出てきませんが、もともと惣菜は商品の回転が非常に高いので、まあ在庫はあまりないだろうという理解に立って1店あたりの在庫を見ると、 3700万円です(連結の場合は薬局が入ってしまうので今回は考慮していません)。一方ベルクは、4700万円です。1000万円の遠いがある。売り場面積の差を考えても、ベルクの在庫金額 は大きい。

以上の数字から何が言えるかということですが、ベルクは、少ない人で、たくさんの在庫を持っているけれども、要は、きめ細かく商品の動きとお客の動きに合わせてチェックし、補充・発注の精度を高めるというやり方ではなく、満タンに補充して、あとは売り減らしというやり方をとっているということですね。

編集部 人で稼ぐか、資本、この場合は売り場面積や在庫も入れてですが、これで稼ぐか。どちらかというと売り場面積の大きさ、在庫の多さと、投入人数の少なさからすると、ベルクは、人で稼ぐのではなく、資本で稼ぐいき方をとっており、どちらかと言えば同じスーパーマーケットでも工業型のいき方ですね。ここにライフスタイル・アソートメント型とコモディティ・ディスカウント型の路線の違いが出ている。

近藤 人手を少なくするために、売り減らしのスタイルでやっていくには、在庫を多く持たなければ、それはできないわけです。もちろんこの場合の在庫は、質を言っているのではなく、あくまで量です。ヤオコーの場合は、そこに人手をかけている。最終的には、両方共に営業利益率は4.5 %くらいですが、同じ利益率でも、それを稼ぎ出すプロセスというか、手立てが、大きく異なっているということですね。

利益に行く前に、売上総利益、つまり粗利益を見てみると、プロセスの差がなおさらよく見えます。売上総利益という有価証券報告書の項目を見ますと、ヤオコーの場合は、売上対比で28.8%、一方のベルクは25.8%で、差は3ポイントもあります。雑収入も加えた営業総利益では、ヤオコーは33.3%、ベルクは29.9%と、3%以上の差です。この粗利のもとでの営業利益は、直近数字でベルクが連結で4.29%、ヤオコーが4.35%とほぼ同じくらいの利益率になっています。

結論づければ、ヤオコーは店舗にたくさんの人を投入して高い発注精度を含めたキメ細かな運営で品揃えのレベルを高め、少なめの在庫を、無駄なく、たくさん回転させることによって、高い粗利を稼いで、たくさんの給料を払っている。一方ベルクは、これに比べると少し大きめの店で、少ない人手によって、ただし商ロ在庫はたくさん投入しておいて、売り減らし中心の営業で、やや少なめの給料の支払いで、ヤオコーと近い利益率を出している。

編集部 見方をかえれば、両社は違う商売ですね。

近藤 どちらもスーパーマーケットとみられていても、違う商売ですね。

編集部 稼ぎのプロセスの違いの中 で、それぞれお客さんを選び、お客さんもまた、自分の支持する店を、それぞれの生活価値観とか、暮らしのTPOS (時と場と場合と場面) で選び、使い分けているということですね。 もし近くにお互いがあれば、そういうことになりますね。言葉をかえれば、お客さんから見て、存在価値のはっきりした店であるということになりますね。稼ぐプロセスが違うというのは、そういうことだと思いますね。

近藤 ヤオコーは、豊かで楽しく生活提案のある店と言っていますし、ベルクは同じコモディティ・ディスカウント型といっても、その中では商品がきちんと揃って店もきれいで、というお店ですね。それが4%を越える利益率になって出てきている。これは定性的に分析すれば、はっきりすることですが。

店・売り場への人の投入とその質のレベルが明確に出てくるコモディティ・ディスカウント型とライフスタイル・アソートメント型

編集部 両社の顧客アプローチに、数字上の差はありますか? 定性的には、ベルクは比較的大きな商圏から価格訴求したチラシなどで集客して売り上げを稼いでいるのに対して、ヤオコーは小商圏、地域密着のエプリデーストアとして、あまりチラシなど販促集客に頼らず、日常の商売の積み重ねでストアロイヤリティを高める努力で、お客さんの支持を得て、売り上げを稼いでいるように見られますが……。

近藤 広告宣伝費とポイントカードの販促費というものを見ると、両社のいき方は、大きく違います。まずヤオコーの場合は、ポイントカードに頼っていませんね。広告のチラシ代、それも目玉の集客型というより、告知チラシの性格が強いですね (もっとも、99円均一などは、その両面を狙っている)。 そういうことで、広告宣伝費は、売り上げに対して1%くらいです。一方、ベルクは販売促進費を1.2%、広告宣伝費を0.9%とあわせて、2.1%を使っています。

編集部 ヤオコーはエプリデーの店だから、ことさらに派手な広告宣伝で、広域から集客する必要はない。

近藤 安売り目玉やポイントカードによる値引きが一般的には行なわれているけれども、ヤオコーの場合、それだけを目当てに店に行こうとは思わせない、魅力ある売り場づくり、品揃え、提供方法やサービスができているということですね。ポイントカードを武器にしなくてもいい商売というのが、集客のあり方というのはあるわけですからね。両社のいき方の違いは、同じような利益を、どれだけの客数によって稼ぎ出しているかの数字で比較してみても分かります。

1店あたりの売り上げは、先にも紹介したように、ヤオコーは平均して18億円の後半、ベルクは17億円の半ばですが、顧客から見た両社の評価 (使い方) には差があります。実際、限られた数ながらお店を見てきた感覚では、ヤオコーの方が平均商品単価も高く、客単価は高いのではないでしょうか。
もう一つ、人の使い方ということで、ちょっと踏み込んでみてみたいと思います。人という場合、スキルレベルの 問題もあるので、あまり単純には言えませんが、 しかしこの質の問題についても、数字の比較で少なからず見ることはできます。

両社のパート比率を比べてみますと、 一般的にバート比率というのは、8時間換算したパートタイマーの数と正社員を合計した全従業員数に対して、パートが何割かということで計算するわけですが、ヤオコーの場合、これが78.3%、一方ベルクは72.3%です。6%しか違わないではないか、と思われるでしょうが、実はそれだけでは本質は見えてきません。正社員一人当たり使っているパートタイマーは何人かという数字を見ると、企業の立ち位置が、両社の場合、明確に出てきます。

ヤオコーの場合、なんと正社員一人当たりのパートタイマーの数は、3.6人です。ベルクは2.6人です。パート比率で見ると、たった6%の差でしかないけれども、正社員一人当たり のパートさんの数を比較すると、一人の差になっている。パート比率を何%にすべきかということは、本来目安にすべき数字ではなくて、一人の正社員が管理できるパートさんは何人なの?という見方のほうが大事だと私は思います。そのほうが、意味のある比較指標になると思います。

ヤオコーの場合、明らかにパートさんにまかせても、相当高いレベルの仕量やってくれるという、質の高さがあるから、正社員一人に対して、パートタイマーの数の多さになって出てきていると言えるでしょう。

ベルクの場合、正社員一人に対して2.6人のパートさんと、ヤオコーより一人少ないわけですが、これは決められた通りのことをきちんとやりなさいと目を配っていなければならないということを意味するわけですから、高いレベルのことを任せる使い方やパートさんに求める職務内容で必要とされるスキルの水準が、ヤオコーとは異なっているということではないでしょうか。

あえて言えば、ヤオコーのほうがパートタイマーへの要求水準が高いし、また使い方もうまいということですね。そうでなければ、高度な仕事も任せられず、結果として社員一人当たりが見られるパートさんの数は多くなりませんからね。マクドナルドのようなファストフードの場合は、店のスペースも狭くて目が届きやすく、作業がマニュアル化されていますから、少ない正社員でも、たくさんのパート・アルパイトを見ることができますが、スーバーマーケットの場合は、そうはいかないと思います。店も広くて、目が届きにくく、仕事もファストフードのように定型化された作業ばかりではないから、しっかり学んだ人でないと任せるということは容易ではない。

こうした数字は、一般には分析の材科になっていませんが、この正社員一人当たりのパート比率を数%アップするということは、決して容易なことではないとしても、これをアップすることで店の力が非常に高まることになると断言しても差し支えないと思います。

編集部 ヤオコーが、全員参加の商売とか、全員参加の経営といっている背景には、こういう数字の裏付けがあるのですね。

近藤 今回は、ヤオコーとベルクだけに限定しましたが、さらに踏み込んだ数字を集め分析すれば、もっと突っ込んだことが言えたと思います。しかし、それは別の機会にまたやりたいと考えています。

編集部 興味深い分析を、これからもお顧いします。どうもありがとうございました。

2020 Value Creator誌 2010.8 (Vol.303) 掲載記事