売り場から人を減らして収益性を高めようとすれば 、かえって商売は縮小均衡化に陥る!!
大不況ということで、当面の緊急避難策としてコストカットが叫ばれているが、そこには危険な落とし穴が……

 リーマンショック以降の日本経済の停滞の中、ここ2年あまりのスーパーマーケット業界は、一品単価を下げることで客数の確保を目指してきた。だが、客数は単価の下落以上には伸びず’顧客当りの買上点数も微増がせいぜいで、既存店ベースでは売上高を大きく落としている。店舗増によらず対前年度比で増収を果たした企業は、4月中旬現在、決算が発表された企業では極めて少ない状態である。

 消費の冷え込みが続く中で何とか利益を確保しようと、多くの企業が経費削減に取り組んでいる。しかし、売上高と益率がともに落ち込む現在の市場環境では、減った売上総利益以上に経費を減らすのは難しく、対平成19年度比で営業利益段階で増益となっている企業は、イオン北海道、サンエー、スーパーバリュー、ハローズ、ベルク、マックスバリュ東北、マルエツ、丸久、マルヨシセンターの8社しかない。

 経営が厳しいから経費を下げはじめるというのでは、本当に必要とされる経費までも減らしてしまうということになりかねない。経営が厳しくない頃から適切に経費をコントロールしてきた企業でなければ、経費のバランスを崩してしまい収益にまで悪影響を与える虞があるのではないだろうか?

 本稿では、すでに発表された22年1月期、2月期の決算および、前年21年に発表された決算も合わせ、不況下に売上高を伸ばした企業が、どのような経費を減らし、また増やすことでその増収を達成したのか、また営菜利益率の維持、向上を達成したのかを見ていきたい。

広告宣伝・販売促進費

 市場が縮小しているとなると、削りやすいのがチラシやポイントにかかる経費である。チラシのサイズを小さくする、配付エリアや回数を減らす、またポイントの率を変える、とさまざまな手を打ってきた企業が少なくないように思える。

 チラシについては、ただ配付することに意味があるわけではなく、中身(特に価格や訴求内容)も重要ではあるものの、21年に年度を終えた期を見る限りは、広告宣伝を実額で増加させた企業が、増収(ここでは坪売上高)を達成していたのは注目に値するだろう。(図1) そして、これらの企業の多くが、販促・広告宣伝率(売上対比での比率)を下げているのである。(図1 、2)

 一方、販促・広告宣伝費の実餅については下げた企業も少なくない。また額は上げているものの店舗増にあわせて投入が増えた企業が多く、対19年度比で1店舗当りで増加させた企業は、イオン北海道、カスミ、サンエー、ベルク、マックスバリュ東海、マックスバリュ東北、マックスバリュ西日本、ライフコーポレーションの8杜に限られる。

 販促・広告宣伝費の削減に取り組んできた企業は、目の前のチラシのコストを下げる、ポイントの倍率デーを減らすといった行動が、本当に収益に悪影響を与えていないかを見直してみてはどうだろうか。


(図2)

人件費・人効率

 それではへ広告宣伝・販促の費用をしっかり投入すれば’既存店の売上高は維持ないしは拡大ができるのだろうか。いくら広告を投じ、販促ポイント倍率を上げても、売れ筋商品が品切れしていては売上高は伸びない。更に、来店いただいたお客さまに、より益率の高い商品を衝動買いしてもらうことも重要である。そういった売場づくりのために、人の投入をどうするかについても考えてみたい。

 経費削減となると、広告宣伝費や販促費と並んで、削減されやすいのが人件費であろう。特に、残業の削減や、パートタイム雇用者の削減など、正社員の待遇は維持しながら人件費総額を減らそうとするアプローチが多いように見受けられる。

 だが、スーパーマーケットの主役は現場のパートタイム雇用者である。人件費比率を落とすことはもちろん重要ではあるが、収益維持・拡大のためには人手をかけることのほうが意味があるのではないか。と言うのも、人件費の削減額以上に総利益が落ちてしまう例が見られるためだ。

 図2は、パートも含めた従業員一人当りの売り場面積の増減率と坪売上の伸び率を見たものである。売り場に対して従業員を減らした企業では、坪売上は、あまり伸びていないか大きく落としている。一方、売場面積対比で従業員を増やした企業は、大幅な坪売上の減少もなく、逆に坪売上を増やしている企業もある。

 図3は、横軸に同様に一人当りの面積の推移をとっているが、縦軸に人件費率の増減をとっている。人を増やした企業の多くは、人件費率が若干上がってはいる。しかしながら、人を減らした企業でも、人件費率は同様に上がっている企業は少なくない。
 売り場の一人ひとりの効率を教育・学習の機会の提供やコミュニケーションロスの削減などによって上げることなく、単に人を減らしたのでは成果には結びつかないだろう。短期的には、人時売上、人時荒利が増大するかもしれないが、長期的には売上高減に陥ってしまう。

 それでは、人についてどういう尺度で管理をするべきなのか? 面積当りの人員数は一つの意味ある指標ではあるが、面積は変動しないので人の増減を見るのと同じことになる。また、人時売上や人時荒利は、売上高や荒利という結果の数字に過ぎないので、コントロールするための指標ではなく、結果としての目標となる。

 そこで、私が碇唱しているのが、店舗客数に対しての部門人員数という指標である。いきなり部門の話が出て恐縮だが、順を追って説明したい。店舗売上高は、購入客を増やすか、購入客あたりの買い上げを増やすことによって上がる。店舗は部門の集合である。部門購入客を増やすには、部門購入率(店舗客数に対しての部門客数)などの指標、来店客に対する部門購入客の増加を目指すことになる。
 
 部門購入率を上げるために重要な役割を果たすのが、来店客数に対しての部門人員の投入時間である。人員効率がよいと考えられている収益店舗は、各部門の人員数が実は足りていない事が多い。人時売上高、店舗客当り部門人員数、部門購入率の3指標を並べて見るとよい。先の2指標はかなりパラツキがあるはずだ。人時売上を追いかけるあまり、部門の購入率が低くなっている店舗の存在が明らかになる。(図4)

 人時売上を極大化するという考え方は、突き詰めて言えば、地域で最安値の価格競争力を持つ企業こそが、「並べておけば売れる」という精神で目指すべきものである。他の企業は、多かれ少なかれ、「品切れなくきちんと並べて、鮮度・品質に目を配り、時には提案もしながら買っていただく」という、人手を付加価値に変える商売をしているはずだ。そのかけるべき手間を、来店客数に対する人員投入量という指標で目標設定することで、プロセスを評価して結果を期待することはできないだろうか。

 企業によって、店舗・売り場の優劣を決める方程式は異なるものの、人の投入量を、店舗全体の客数対比で見ていくことで、さまざまな課題発見に役立つはずだ。

 本稿では、広告宣伝・販売促進、そして売り場における人の投入についてまとめた。次回は、スーパーマーケットが陥りがちな、一般経費削減の盲点について論じたい。次々回は、ぼほ出そろった2、3月決算の分析を総括する考えである。

注釈:図を除く、本文中における業績分析の対象は、4月中旬現在、21年度の決算情報を確認できる企業のうち、ホールディンクス企業や変則決算だった企業を除いた計28社である。好業績と報じられる、西友、オオセキの決算が公開されていないこともあり、全てを網羅できているわけではないが、一つの参考としていただきたい。なお、ヤオコーは3月期決算でこれには含んでいない。
 図も同様に、決算公開企業から、ホールディンクス企業と変則決算だった企業を除いた企業群を対象とし、上記28社にくわえて、22社を含む。図1~3については、上記28社のうち最新の該当情報を取得できた企業については、あわせて明示してある。